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最高裁判所第二小法廷 昭和62年(行ツ)79号 判決

北海道網走市駒場南八丁目八七番地

上告人

野田明

北海道網走市南六条東五丁目九番地

被上告人

網走税務署長

大谷一

右指定代理人

植田和男

右当事者間の札幌高等裁判所昭和六一年(行コ)第六号所得税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和六二年三月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論憲法一四条及び三二条違反の主張は、国税通則法一一五条の不服申立て前置により納税者が訴訟において立証上不利な地位に立たせられることを前提とするものであるところ、そのように認めることはできないから、その前提を欠く。論旨は、ひっきょう、独自の見解を前提として原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 奥野久之)

(昭和六二年(行ツ)第七九号 上告人 野田明)

上告人の上告理由

第一 不服申立の前置を定めた国税通則法一一五条の憲法違反について。

一 本件のような税務署長がした処分の取消を求める訴訟には、異議の申立等不服申立前置主義が採用されているが、かかる制度は取消を求める当事者となる国民に対し、憲法三二条に規定する裁判を受ける権利をはく奪し、また同一四条の平等原則にも反するものである。

二 そもそも、司法権は当事者間に存する具体的な権利義務の紛争について、法を適用して紛争を解決する国家作用をいうとされており、本件のような課税処分の取消を求める紛争は、処分を受けた国民と、処分をした当該税務署長間の紛争であるから司法権の作用として解決されなければならない。

したがって、両者間の紛争を解決するには、司法機関が公正な判断者となり、両当事者が武器対等の原則にたつ手続きを前提に遂行されなければならないのが大原則である。

三 しかし、本件訴訟を提起するには、当該税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所長に対する審査請求に対する審査請求を経なければならない。これでは、処分を争う国民はあらかじめその不服内容を相手方に申告して了知され、右手続きを経由する間は、相手方である当該行政機関は専らその不服申立て内容に対する反対証拠を強力な権能を駆使して、十分に自己の判断を維持しうるだけ補強できるにかかわらず、処分を争う国民の側はこの間何ら手段をとることができない立場に立たされる。そうして、異議申立て、審査請求を経た段階では、両者間においては訴訟当事者としての圧倒的な地位の優劣を生じ、その後裁判所に出訴しうる道が開かれているとしても、到底対等な当事者として訴訟を追行しうる状態ではなくなってしまっている。

四 これでは、本来司法作用として、両当事者対等の立場で争うべき事柄が、不服申立前置主義の結果一方の圧倒的優位の立場を形成された後に名目的に権利保証がなされるというにすぎず、実質的に国民の裁判を受ける権利を奪っているに等しい。また同じく行政機関の処分を争う国民が、不服申立を経由するか否か自由に選択できる制度の処分を受けたか、本件のように不服申立が前置される処分を受けたかによってその地位が差別されることになる。

この意味でも、不服申立前置が強制されるのは憲法違反である。

五 憲法に拘束される裁判所が、このような違憲制度を不問に付し、それを前提としてなした判決は憲法に違背したものである。

第二 理由不備、審理不尽の違法

一 第一で述べたとおり、不服申立段階で収集された証拠及びなされた判断は、公正な第三者によるものではなく、したがってその取捨選択及び価値評価には特別の考慮を払う必要がある。

一方取消を求める国民の側の訴訟段階における地位は圧倒的に弱く、その点を十分に考慮して審理においては通常の経験則上の判断のみで証拠の取捨その他の判断をしてはならない。

二 原判決はこの点何ら考慮を払わないで、第一審判決において特別の理由を示さず挙げた行政機関の一方的証拠をそのまま採り入れ、一方訴訟当事者の地位として弱い上告人側に対しては、本人の尋問申請も認めず判決に至ったもので、証拠の選択についての理由不備(三九五条一項六号)の違法がある。

本件は、事実の仮装、隠ぺいという上告人自身の認識等が問題となる事案にかかわらず、原判決は右のとおり十分な審理を尽くさず一方的な証拠に基づく事実認定をしているもので、審理不尽の違法を犯している。

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